イラン核合意をめぐるトランプ政権の決定に関して
2017年10月16日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
浅野 貴昭
はじめに
2017年10月13日にトランプ大統領が行ったイラン戦略に関する演説を踏まえ、今後の展開について解説する。トランプ大統領は演説の中で、イランは核合意、包括的共同作業計画(JCPOA)の精神を守っておらず、イランによる合意順守を認定できないと表明した。これによって、イラン経済制裁が即時再開、強化される可能性は低いが、年明け以降、大統領権限の範囲内で経済制裁が順次再開される可能性がある。
1.イラン核合意をめぐる今後の展開
【資料1】(次頁)はイラン核合意をめぐる今後の可能性について、米国政治の観点から情報を整理したものだが、「認定せず」とある赤の矢印が現在位置である。ここから国際交渉と、米国内プロセスの2つの道筋が考えられ、この内外交渉を同時並行で進めることも可能で、現にトランプ大統領は同盟国や連邦議会との協議をそれぞれ進めると言明している。
まず一つの道筋は、国際交渉を進める選択肢で、イランの合意違反を締約国に提起し、問題の解決に至らない場合は国連安保理制裁を再開する、というものである。しかし、検証作業を担う国際原子力機関(IAEA)が、イランは合意を忠実に履行している、と認定している現状では、核合意に関する国際交渉をトランプ政権の意向通りに進めることは難しいと思われる。
もう一つの道筋は、米国が国内法に基づき、単独でイラン経済制裁の再開、強化を検討する、というものである。
「イラン核合意再検討法」(P.L.114-17)と呼ばれる米国の国内法では、時の政権がイランの合意順守状況に関して、「認定」または「不認定」の判断を下すことになっている。今回のように「不認定」になった場合、連邦議会は、特別に認められた審議プロセスの下、経済制裁再開の法案を上程、審議することができるし、またトランプ政権も大統領権限の範囲内で独自に制裁を再開することができる。
制裁再開のイニシアチブをとるのが政権なのか、議会なのか、両者なのか、と3つの組み合わせがあり、いずれにしても、あくまで米国による単独行為だが、米国の制裁法の性格上、多くのグローバル企業のイラン・ビジネスに影響を及ぼす可能性がある。なお、先週の大統領の演説を受け、既に米財務省は経済制裁対象リストに4つの企業を新たに書き加え、革命防衛隊(IRGC)への制裁強化を明らかにしている。
ただし、この度の「不認定」は、政権や連邦議会に対して、イラン制裁の再開を義務付けるものではなく、今回の演説でイランへの厳しい対抗姿勢を明らかにしたにも関わらず、経済制裁をめぐる大枠は当面は現状のまま、という可能性もある。
2.さらなる行方
今後の展開に関しては、トランプ政権や連邦議会による制裁措置の軽重によって、イランも核合意を引き続き順守する義務があるか否かを自ら判断するものと思われ、核合意の将来は甚だ不透明と言わざるを得ない。トランプ演説ではJCPOAからの脱退も示唆されたものの、政権幹部の意向としては核合意の破綻までは望んでいない、との米国内の報道もあり、また、異例の共同声明において英独仏首脳が引き続き合意を順守していくことの重要性に触れている。
米国内政は、年末に向けて2018年度予算、債務上限問題や税制改革といった大きな案件の審議が控えていることから、トランプ政権、議会共和党は、果たしてイラン制裁を審議し、可決するだけの時間や政治資本があるのか、という問題もある。引き続き、今後の展開を注視したい。
以上
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