日本株ってバブルなの?
2018年01月29日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行
日経平均株価は一時2万4,000円を超え、26年ぶりの水準まで上昇し、年度末までに2万5,000円、更に2018年の年末には3万円まで上昇するとの強気の声も聞かれる。一方で、急ピッチと思える今の株価上昇は根拠に乏しく、資産バブルの醸成を警戒するような指摘もある。図表1は日経平均株価の長期推移である。1985年以降現在までの平均株価の推移を折れ線で示し、棒グラフは前年の同じ時期との価格変化率を示している。85年初めに1万2,000円に満たない平均株価はドル安や87年秋に起きたブラックマンデーといわれる米国における株価急落など日本経済にはアゲインストとなるような出来事に見舞われたにも関わらず、上昇が続いていた。前年との比較を示す棒グラフが史上最高値を付けるまでマイナスを記録することがない、今振り返っても異常な状況が続いていた。他方、2013年以降、平均株価は7,500円台から2万4,000円台まで急ピッチで上昇していることでバブルを警戒する声もあるがリーマンショックや震災など異常時の影響を受けた7,000円台の平均株価が実際のところは異常で、リーマンショック前の水準と比較すると現在の株価はさほど高く感じるものではない。また、バブル時の一本調子の上昇と比較すると現在の株価は経済情勢に合わせて水準調整を繰り返しながら上昇が続いていると読み取ることができる。
株価を形成する定性的な要因を簡単に整理したものが図表2である。株を発行している企業そのものの業績が最も重要だが、世界の政治経済情勢や各産業の動向、経済政策、また、為替レートの動向も重視される。そして、現在から見える将来への期待が株価形成に大きく影響する。バブル期は景気拡大が延々と続くという強すぎる期待がバブルを膨張させ、崩壊後は総悲観ともいえる状態が長く続いていたことと比べれば現在は企業業績という実績を踏まえて、行き過ぎを警戒しながらも適度な期待により株価が醸成されているようで今のところは健全な状況にあると言えそうだ。
図表3はTOPIXの推移である。TOPIXは東証1部上場株の時価総額を指数化したもので、1968年を100としている。バブル時代に記録された2,881という最高値との比較では現在1,800を多少超えた水準でまだ大きな差がある。しかし、TOPIXは株価から算出した指数で配当が含まれていない。配当を考慮し算出した指数をみると、近年は大きく上昇し、キャピタルゲインと配当により得られる収益を見るとバブル期に記録した高値に近い水準まで回復していることが伺える。
次に誰が株を買っているのか、で真っ先に挙げられるのは海外投資家である。図表4は投資部門別売買状況を示したものである。2012年は海外投資家の買いに対し個人や金融法人が売りに向かっているという構図であった。13年もこの構図は維持されたが海外投資家は単年で15兆円を日本株に投資しており、いまのところ保有したままの状況である。また、14年以降は前年まで売り越していた金融機関が買い越しに転じている。これらはGPIFなどを始めとした年金基金が株式での運用比率を引き上げたことや日本銀行が金融政策を実行するにあたり上場投資信託を購入していることが影響しているものと考えられている。
特に日本銀行は政府と一体となって、デフレマインドを払しょくするために年間6兆円のペースで上場投資信託(ETF)を購入している。図表5は日銀によるETFと不動産投資信託(REIT)の累計購入額を示したものである。2017年末の時点で累計17兆8,000億円のETFを購入しているが、これは先に挙げた海外投資家が13年に日本株に投資した金額を上回る規模である。この2者の大きな買いにより需給が引き締まり、株価の下支えとして機能していると言えそうだ。
今回の株価上昇は急ピッチではあるが企業業績の改善に裏打ちされている点もあり、単なるバブルではなさそうである。2018年の景気は引き続き安定するものと期待されており、年末に3万円という予想はやや前のめりのように思われるが、まずは節目となる2万5,000円やバブル崩壊後の高値にあたる2万6,000円半ばが現実的な目標価格になりそうだ。
最後にリスクについて触れておくと、まずは朝鮮半島情勢の緊張の高まりは当事国である我が国にとって決してプラスにならない。次に米国やアジア経済の変調は貿易量や投資収益の低下を通じて我が国経済にとってマイナスになる。この場合、海外経済の減速、例えば米国経済が想定以上に鈍化することになった場合、現在前提にしている利上げが実行されない可能性が高まり、円高になるリスクも浮上する。また、現在交渉が滞っているNAFTAなど通商問題も投資収益を歪めるリスクとして挙げられる。日銀の政策転換だが現在の物価上昇ペースは目標以下であるので緩和政策からすぐに転換することはないとは思うが状況に応じた減額は十分に考えられる。もちろん、保有ETFを売却する本格的な出口に至るまでは相応の時間が必要だろう。むしろリスクとして考えるべきことは景気回復が顕著な折に、中央銀行が相当量の株式を間接保有していることそのものや、結果として東証一部の時価総額の7%程度にあたる株を保有していることで、日本企業のコーポレートガバナンスを歪めることになるのではないかなど、内外からの批判のトーンが強くなり政策変更を強いられることと考えている。
以上
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