トランプ大統領の一般教書演説概要
2018年02月05日
住友商事グローバルリサーチ 国際部青葉 和明
はじめに
トランプ大統領は、米東部時間1月30日午後9時過ぎから約1時間20分にわたり、就任後初の一般教書演説を行った。演説では、政権1年目の実績を強調すると共に、党派による分断を乗り越え、国内インフラの再建や移民制度の改革などに取り組むよう議会に求めた。しかし、与野党の政策面での隔たりは大きく、議会では厳しい協議が続く見込みだ。
1.超党派協力、政権の経済実績を強調
トランプ大統領は演説の冒頭、2017年に米本土を襲った大型ハリケーンやラスベガスでの銃乱射事件に言及し、これらの試練に際して国民が示した勇気と結束を称賛。その上で、与野党議員に対しても結束するよう求めた。大統領が融和を呼びかけた背景には、議会で与野党の対立が先鋭化しており、大統領の就任1周年でもあった1月20日から3日間、連邦政府機関の閉鎖を招いたこともあったと思われる。
経済については、自らの就任から1年を経て米国は繁栄を取り戻したと訴え、2017年12月末に成立させた税制改革法などの成果を強調した。また、トヨタ自動車とマツダによるアラバマ州の工場建設を例に挙げて、米国への投資が拡大していることにも言及した。
2.政権2年目の国内優先課題
トランプ大統領が超党派の協力により実現を期待している2年目の国内優先課題が、インフラ投資と移民制度改革だ。インフラについては、当初1兆ドルとしていた投資規模を引き上げ、官民合わせ今後10年間で最低1兆5,000億ドルの投資を創出するための法整備を議会に要請したが、詳細には踏み込まなかった。
移民制度改革については、改革の柱となる4項目 (①180万人の「ドリーマー」に市民権獲得の道を開く。②メキシコ国境沿いの「壁」建設を含めた国境警備の強化。③移民多様化を目的とした抽選ビザ制度の廃止。④移民の家族呼び寄せによる「連鎖移民」の制限。)を示し、法案可決を議会に求めた。政権案は、子供の頃に親に連れられて不法入国した「ドリーマー」に対する措置では妥協する一方、「壁」については譲らず、合法移民を制限する措置(③及び④)にも踏み込んだ内容であり、野党民主党は強く反発している。
3.通商・安全保障政策
通商政策については、公正で互恵的な貿易協定を追求し、貿易ルールを厳格に執行して米国の労働者と知的財産を守るとの方針を訴えた一方、中国などに対する具体的措置や、NAFTA、TPPには言及しなかった。
安全保障政策については、米国はならず者国家やテロリスト、中国・ロシアといった競合国からの脅威・挑戦に晒されていると訴え、米国の核戦力を近代化し再建する必要性を強調。議会に対しては、現在、削減措置が課せられている国防予算について、その措置を撤廃し米軍が必要とする資金を提供するよう求めると共に、イラン核合意の根本的な欠陥を正すよう要請。北朝鮮については、会場にゲストとして招いた脱北者のストーリーを紹介しつつ、「世界で最も残虐な独裁体制」と批判し、最大限の圧力をかけて核ミサイルの開発阻止を図ると訴えた。
4.当面の課題は移民政策と政府予算
トランプ大統領が議会に対応を求めた諸課題のうち、喫緊の課題は移民政策である。移民政策を巡る与野党の対立は、政府予算を巡る協議をこじらせる要因ともなっており、今週の2月8日に政府予算の失効期限が再び迫る中、移民政策と予算を巡る協議の行方について引き続き注視したい。
以上
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