米中経済摩擦
2018年04月09日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
浅野 貴昭
はじめに
米国と中国の間における経済摩擦が注目を集めている。トランプ政権は、中国に対し、強硬な貿易政策を繰り出す一方で、中国との対話の行方に期待する姿勢も見せ、対する中国側の反応も一定の範囲内にとどまっている。しかし、今後の北朝鮮との対話や、米国の中間選挙といった要素も加味すれば、小競り合いが長引くリスクも十分あり、その間、注視すべきは、一つ一つの制裁措置よりも、「米中経済戦争」というイメージが先行し、実態以上にリスクが増大してしまうことではないか。これまでの経緯と懸念について【別紙】に沿って解説する。
米中による応酬
3月23日、米国政府は通商拡大法232条に基づき、国家安全保障上の観点から、鉄鋼・アルミの輸入品に対する関税の引き上げに踏み切ったが、米国の主要輸入先であるEUやカナダなどを除外したことで、むしろ中国を狙い撃ちにしたような形となり、中国側は反発。128品目にのぼる、米国からの輸入品に報復関税を課す事態に至った。
トランプ政権は、さらに4月3日には、通商法301条に基づき、約1,300の制裁対象品目を公表。知的財産権の侵害を理由に、中国からの輸入品に25%の報復関税を課すことに加え、中国企業による投資を規制するルールの策定や、WTOへの提訴を行う、とした。その翌日には、対抗策を中国が発表し、106品目、総額500億ドルに及ぶ米国からの輸入品に25%の追加関税を課す準備がある、と発表した。
米国側では、外資企業によるクロス・ボーダーM&Aといった対米投資の審査の強化や、関税対象品目の拡大、中国人に対する入国ビザ発給制限といった措置が提起されている。4月5日、トランプ大統領は、301条に基づいて発表した報復内容に加え、さらに1,000億ドル相当の品目に対しても関税の賦課を検討するよう、通商代表部に指示した。また今月中に、米財務省から為替報告書が公表される見込みで、中国への言及が注目される。中国側も、WTO提訴や、米国債の買い控えや売却などを示唆している。
イメージが先行する米中経済摩擦
こうした一連のやり取り自体が、米中間のコミュニケーションを形成するが、トランプ政権が繰り出す通商政策に対して、今のところ、中国の対応は一定の範囲内にとどまっていると言える。301条の制裁発動まで、まだ2~3か月の猶予があるとみられており、その間に両国は落としどころを見つけるはずだ、という米中妥協のシナリオが現段階では大宗を占める。しかし、北朝鮮をめぐる国際情勢や、2018年11月に実施される米国の中間選挙も視野に入れながら、米中両国間の綱引きが行われるとすると、小競り合いが長引く可能性や、あるいは落としどころを見いだせないまま、両国が意図しない形で対立が深刻化していくシナリオも十分に想定できる。
今回の米中経済摩擦を、かつての日米経済摩擦と比較すれば、いくつかの相違点を挙げることができるが、グローバル化が深化した経済の下、大国同士が相互に報復措置を畳み掛ける、という点が往時とは大きく異なる。それだけに、イメージが先行し、実態以上にリスクを大きく見せてしまうことが懸念される。
以上
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