OPEC総会(6月22日)を控えた原油市場
2018年06月11日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子
原油価格は堅調な世界経済とOPECの協調減産を背景に2017年後半から右肩あがりで上昇を続け、米国が対イラン制裁復活を決定した5月初めには、1バレル80ドルと2014年以来の高値をつけた。しかし、その後サウジアラビアとロシアが2018年末まで続けるとしてきた協調減産を緩和する方向で検討に入ったと認めたことで、価格上昇に歯止めがかかっている(図表1)。
OPECとロシアなどの産油国が方針修正を検討し始めた理由としては、主に3つある。1つ目は原油高による家計への負担増が懸念され始めたことである。米国ではガソリン小売価格が4年ぶりに3ドルを超え、夏のドライブシーズン後の中間選挙でガソリン価格上昇を理由に有権者の票を失いたくないと政権は神経質になっており、トランプ大統領が4月にTwitterで、価格高騰はOPECのせいだと名指しで非難したことでもこれ以上の油価上昇は避けたいとの政権の思惑が透けてみえる(図表2-①)。また米国だけでなく、重要な選挙を控えたインドネシア、インド、トルコ、ブラジルなども燃料補助金の復活や燃料税の引き下げに動いており、消費者が許容できない水準まで燃料価格が上昇しては、世界経済成長への足かせ、ひいては石油需要の減少につながるとOPECも懸念したことが一因と考えられる。
2つ目は米国の対イラン制裁の復活である。米財務省は、11月4日までにイラン産原油の輸入減少を実施した国に対しては、二次制裁の適用除外を認めると発表した。前回の制裁時には20%の石油輸入減少が基準となったため、今回も同様の措置となれば、イランの原油輸出量は日量50~60万バレル減少する可能性がある(図表2-②)。このようにOPECが協調減産を開始した際には想定していなかったイラン原油の減少も増産を検討し始めた背景にあるとみられる。
3つ目は、ベネズエラの原油生産が減少を続け、OPEC全体の減産量が目標を大幅に上回っていることが挙げられる(図表2-③)。ベネズエラでは経済危機による油田への投資不足と米国の経済制裁により、原油生産量は1年前から30%も減少している。さらに5月にマドゥロ大統領が総選挙を強行に実施したことで米国が追加制裁に踏み切り、原油生産量は回復する目途が立っていない。この結果、4月時点のOPEC全体の減産量は日量200万バレルを超えており、イラン産原油の減少が今後加わることを考慮すれば、行き過ぎた減産に歯止めをかけるために増産が選択肢として考慮され始めたといえる。
なお、OECDの石油在庫は米国の増産を持ってしても過去5年平均を下回り過剰在庫は一掃された(図表3)。OPECは減産のターゲットとしてOECD石油在庫の平準化を掲げてきたが、減産目標が達成された状況下で必要以上の減産を続ければ需給が逼迫し、更なる価格高騰を招く恐れも出てきている。
以上のことから、6月22日に開催予定のOPEC総会では増産が決定される可能性は高まったと考える。但し、OPECとしては自国の財政が悪化する原油価格の大幅な下落は避けたいと考えていることから、増産幅は最低限なものに留まるとみられる。また、増産時期も即時実行よりもイラン産原油の制裁効果が表れる11月以降になる可能性が高いとみられている。いずれにしても、6月の総会はOPECの今後の方針を探るうえで2018年も非常に注目を集めている。
以上
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