トルコ大統領選挙及び議会選挙結果と今後の展望
ホット・トピックス
2018年07月02日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
はじめに
2018年6月24日、当初の予定から1年半前倒しで、トルコにおいて大統領選挙と大国民議会選挙の2つの選挙が実施された。既に暫定結果が発表されており、本稿ではその結果と今後の展望について解説したい。
1.大統領選挙結果
大統領選挙は、事前予想では現職のエルドアン大統領が1回目の投票で50%を取れずに決選投票に持ち込まれるとみられていたが、エルドアン大統領が1回目の投票で過半数の52.5%を取って再選を決めた。大統領任期は5年間で2期務めることができるが、これまでの任期はカウントされず、エルドアン大統領は今期から2期10年務めることが可能である。
今回の選挙後から、2017年の国民投票で決まった実権型大統領制が始動し、名実ともに大統領が強大な権力を握る制度に移行するため、本選挙は大きな意味を持つ。具体的な制度改革として、まず首相ポストが廃止され、副大統領や閣僚を全て大統領が任命でき、大統領令や非常事態宣言の発令や、国家予算案の策定も大統領が行えるようになる。また、大統領が政党に所属できるようになったため、エルドアンは与党公正発展党(AKP)の党首に就任している。さらに、憲法裁判所の判事15人中12人や、国内の判事・裁判官の人事権を握る高等委員会のメンバー13人のうち6人を大統領が任命できる。このように立法、行政、司法の3権に強大な影響力を行使しうる存在になるため、これを支持する人たちは「政策が一本化され国家運営がスムーズに進む」とポジティブにみるが、「大統領にあまりに強大な権力が集中し過ぎ、権力の分立によるチェック&バランスが効かなくなる」と懸念する声もある。
なお、この選挙結果は暫定結果で、公式結果は7月5日に高等選挙委員会(YSK)から発表される予定である。今回の選挙に監視団を派遣した欧州安全保障協力機構(OSCE)は、非常事態宣言下で選挙が行われたことに疑義を呈しており、メディア監視団体は国営テレビがエルドアン大統領の選挙キャンペーンに他候補の10倍の時間を使ったと批判しているが、インジェ候補は「不平等な選挙ではあったものの、大差をつけてエルドアンが選挙に勝ったことは認める」と敗北を宣言している。
2.大国民議会選挙結果
次に、議会選挙の結果だが、エルドアンの与党公正発展党(AKP)が前回より得票率を7%落とし、600議席中295議席と単独では過半数に届かなかった。しかし、選挙連合を組んだ極右政党である民族主義者行動党(MHP)が善戦し、2党の連合では過半数を超えた。事前予想では、野党が善戦して議席の過半数を握り、エルドアン大統領と議会とのねじれが生じるのではないかと危惧されていたが、その事態を回避したことで、投資家は好感を示している。しかし、与党AKPは単独で過半数を取れなかったので、今後議会で法案や予算案などを通すために、MHPからの継続的な支持が不可欠になる。AKPは2002年に政権を取って以来、これまでほとんど単独で過半数を握ってきたため、他党との連立がうまく機能するのか注目される。
3.トルコ経済の現況
今回の選挙でエルドアン大統領や与党が苦戦を強いられたのは、悪化するトルコ経済が一因である。年初からトルコ・リラは約2割下落しているが、一つのきっかけは、5月にエルドアン大統領が「実権を持つ大統領として選出されれば、中銀の金融政策へ積極的に介入する」と発言したことだった。この発言で、市場は将来的にトルコ中銀の独立性が保たれないことを危惧し、リラ売りが進んだと言われている。大統領の発言後にリラは史上最安値を記録し、5月のインフレ率は12%を超えた。その後、中銀が慌てて利上げを行い一時的に少し戻したが、政策が後手に回っており、またジワジワとリラ安が進んでいる。
4.今後の展望
最後に、今回の選挙結果が今後のトルコの政策に及ぼす影響だが、前述のとおり、連立を組む極右政党MHPの発言力が強まることが予想される。先週、エルドアン大統領はMHP党首と党首会談を行い、MHPに大臣ポストを与えることで合意したようだが、MHPは内相や国防相のポストを狙っているとの報道が出ている。MHPはトルコ民族主義政党でクルドの権利拡大に対して否定的で、国内で自治を要求するクルド人に対する弾圧や、シリアやイラク領内のクルド勢力に対する越境攻撃も継続するものとみられる。
また、今後これまで以上に大統領官邸内で様々な政策決定がされることが予想され、政策の不透明性が増すことも考えられる。エルドアン大統領の金融政策への介入懸念は未だに残されているが、まずは7月24日の金融政策委員会に注目したい。経済政策に関しては、どのような人物を経済関係閣僚に任命するかで、エルドアン大統領の今後の経済政策の進め方が見えてくると考えている。経済の立て直しの必要性はエルドアン大統領も政権幹部も分かっていることではあるが、2019年3月には地方選挙が控えており、当面は緊縮や引き締めなどの国民に痛みを伴う経済改革は先送りされるとみられている。
そして、2年前のクーデター未遂事件以来繰り返し延長されてきた非常事態宣言だが、先述のMHPとの党首会談において、7月半ばの次の延長のタイミングで非常事態宣言を延長しないことを決めたと報じられた。エルドアン大統領は、選挙キャンペーンの終盤に非常事態宣言をこれ以上延長しないことを国民に約束した。未だ非常事態宣言が続いていることに関しては、内外から多くの批判を受けており、解除の決断は好意的に受け止められるだろう。
以上
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