COP24結果報告
ホット・トピックス
2018年12月25日
住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部
菊井 彩乃
1.パリ協定のポイント
ポーランドのカトヴィツェで2018年12月に開催されたCOP24の結果について報告する。パリ協定は2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みで、詳細な運用ルールを策定する必要があった。今回のCOP24でそれら詳細ルールについて合意できないと、2020年からの適用に間に合わないこともあり、交渉の行方が大変注目されていた。
パリ協定のポイントを簡単に解説すると、2条に長期目標として、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて2℃未満に保つとともに、1.5℃未満に抑えるように努力するという目標が掲げられている。
4条、13条に規定されている「緩和目標のプレッジ」及び「透明性レビュー」で、全ての国が温室効果ガス削減・抑制目標であるNDC(Nationally Determined Contribution)を策定し、5年ごとに条約事務局に提出・更新することになり、またその進捗状況に関する情報を2年に1度報告し、専門家のレビューを受ける。
また、4条における、「長期低排出発展戦略」で、全ての締約国は、長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略を作成し、通報するように努力すべしとされている。
対応策としては、市場メカニズムの活用や、途上国への資金支援を行うこととなっている。
さらに、14条「グローバル・ストックテイク」において、2023年から5年ごとに実施状況(緩和、適応、実施・支援の手段)を定期的に確認し、その結果を基に各国はその行動と支援を更新することになっている。
2.主な交渉グループ(二分論)
パリ協定を巡っては、いわゆる「二分論」に関して、先進国と途上国間で対立構図がある。先進国は、全員参加型の、共通の枠組みを目指している一方で、途上国は、温暖化は先進国の発展によって引き起こされたとの思いがあり、先進国とは分けた扱いにすべきという二分論にこだわっている。また、さらにグループは細分化され、それぞれで主張が異なっている。
先進国での二大グループの一つはEU、もう一つは日本・米国・カナダ・ニュージーランド・ロシア・オーストラリアなどを中心としたアンブレラグループである。途上国は、G77+中国と言われるが、実際にはさらに細分化されており、AOSISは温暖化によって沈んでしまうリスクのある島国、LDCsはとにかく先進国からお金を少しでももらいたいという国々である。LMDCは先進国に対して最も敵対的で二分論を強く主張しているグループで、中国、インドなどがいる。また、温暖化対策で化石燃料の需要が減っては困るアラブグループもいる。それぞれ利害関係が異なり、交渉グループによって力点の置き方が異なっている。
3.COP24結果概要
COP24の交渉結果は全体として、ある程度バランスの取れた、全員参加型のパリ協定の精神が堅持されて合意した。
●緩和については、NDCの追加情報、計算方法などは、先進国・途上国統一で規定され、先進国・途上国で指針を分ける二分論は受け入れられなかった。また、NDCのスコープについて、緩和に特化することになり、途上国が主張していた適応、支援は含めないことになった。
●透明性については、先進国も途上国も共通枠組みの報告様式、内容などのガイドラインを設計した一方、能力に制約のある途上国への柔軟性の付与については、柔軟性をどの項目に適用するか、いつ改善させるかは自国で決められることになった。ただし、柔軟性を自己適用する場合には、その理由と改善時期について説明責任が発生するため、中国などの思惑には歯止めがかけられた。
●市場メカニズムについては調整がつかず、2019年のCOP25(チリ)に持ち越されることになった。
●資金については、途上国に譲歩したところもあり、それは資金支援に関する統合報告書を作成することで、途上国が資金支援拡大を求める根拠にすることである。また、2025年からの新資金目標として、年間1,000億ドルを下限とし、新たな定量目標を設定することをパリ協定採択時に決定しているが、その議論開始タイミングを、途上国の主張通り、早期の2020年からにすることを決定した。
●IPCC1.5℃特別報告書は、COP21で国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)から要請され、2018年10月に提出されたもので、1.5℃気温上昇の世界についての調査結果である。今回のCOP24では、このIPCCの報告書が至る所で言及されており、パリ協定では努力ベースとされている1.5℃が世界のスタンダードになってくる可能性がある。
4.IPCC1.5℃特別報告書、及び気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
1.5℃の世界は、Negative emissionでないと達成できないと言われており、カーボンプライシングに換算すると、数百ドルから数千ドル/t-CO2といった価格レベルが必要になる。ところが、パリのイエローベスト運動の結果、フランスは炭素税を現行より11ユーロ引き上げることにも失敗している。また、ドイツも、この1月には2020年に90年比▲40%目標の断念を表明している。このように、COPの世界と現実世界との乖離は大きくなっている。
一方、今回のCOP24では、世界の年金基金や資産運用機関などが、各国政府が公約している気候変動対策を強化するように求める共同声明を発表している。その中では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年の勧告で、気候関連情報開示の促進を求めていることを踏まえて、各国政府はTCFDの適用を公に支援し、開示にコミットすることが重要である、と強調しており、その流れを受けて、日本政府内でもTCFDを検討しようとする動きが見られる。
以上
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