安定出力電源としての再生可能エネルギー

2017年06月05日

住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部
宮之原 正道


1.はじめに

 気候変動問題等を背景として再生可能エネルギー(以降、「再エネ」。本稿では風力、太陽光、バイオマス、地熱を対象)に対する期待は大きく、世界各国で導入が進んでいる。特に、2016年11月にパリ協定が発効され、脱炭素化の流れが加速する中、さらに注目されている再エネの概要について解説する。

 

 

2.再生可能エネルギーの今後の見通しと概要

 【図表1】の国際エネルギー機関(IEA)による世界の発電電力量の推移・今後の見通しで示した通り、世界の電力需要の増大にあわせ、再エネの普及も進む見通しである。世界の発電電力量に占める再エネによる発電電力量の割合は、2013年には6%程度であったが、2040年には20%弱に達する見通しである。

 

 

 再エネは、発電出力の特性から大きく2つに分類される。

 【図表1】の吹き出し部分に示した通り、1つは「変動電源」と呼ばれ、自然条件で発電出力が変動する再エネである。具体的には風力や太陽光が該当する。これらの再エネは、各国の政策による後押しや技術革新によってコストの低減が見られ、世界的に普及が進んでいるが、一方でバックアップ用の電源や電力供給を安定させるために時々刻々と変化する発電量の変動と電力需要とを調整する調整用電源(主に火力発電や揚水発電、場合によっては蓄電池)が必要である。

 なお、こうした変動電源の導入が大量に進むと、電力供給安定化のために、さらにバックアップや調整用電源の確保が重要になる。仮に、調整能力が十分でなければ、周波数が不安定になり、最悪の場合は停電になる等の問題が顕在化する恐れがある。

 もう1つは、「安定電源」と呼ばれ、自然条件に関わらず発電出力が安定している再エネである。具体的には、地熱やバイオマスである。

 

 

3.各再生エネルギーの発電コスト

 【図表2】にIEAが試算した各再エネの発電コストを示した。前述の通り、電力供給安定化のためには、変動電源には調整用電源が必要だが、そのコストが反映されていない点に留意が必要である。資源エネルギー庁の試算では、今後、日本国内の再エネ導入による電力供給安定化のために必要な追加費用は年間1,000億円を超えるとみられている。

 再エネの発電コストは設置場所の自然条件等で大きな幅があるが、一般論として、バイオマスや地熱といった安定電源は変動電源である太陽光や風力に比べて、コスト低減の余地が限られている。

 

 【図表3】に各再エネの発電コスト構成の比較を示した。まずバイオマスについては、再エネの中でも唯一燃料コストが発生する。その割合は発電コスト全体の6~7割程度を占めており、いかに削減するかが課題になっている。また、地熱に関しては、地下に賦存する高温・高圧の蒸気を利用することから、燃料を必要としないが、その地下資源を発見するために、高度な資源探査プロセスが必要なことから、発電コスト全体を引き上げる要因になっている。逆に言えば、これら資源探査プロセスへの公的な支援がある場合には、経済性は十分に成り立つ可能性は高いと言えよう。

 

 

4.最後に

 再エネの導入が大量に進むことで、前述の変動電源の大量導入による問題も顕在化していくことが考えられ、各国のエネルギー・環境に関連する諸政策の動向には注意が必要である。

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。